平成18年8月30日判決言渡
平成17年(ワ)第3018号 売買代金返還請求事件
口頭弁論終結日 平成18年6月28日
判決
原告 X
被告 東急不動産株式会社
主文
1 被告は、原告に対し、原告から別紙物件目録2記載の建物から退去して同目録1記載の土地の持分167008分の5702及び同目録2記載の建物の引渡しを受けるのと引き換えに、金2870万円及びこれに対する平成16年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)被告は、原告に対し、原告が被告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物から退去して同目録(一)記載の土地の持分167008分の5702および同目録(二)記載の建物を引き渡すのと引換えに、金2870万円および平成15年7月1日から支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は、原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)売買契約
ア 原告は、平成15年6月30日、被告との間で、別紙物件目録記載の不動産(マンション「アルス東陽町301号」。以下、別紙物件目録2記載の建物を「本件建物」といい、本件建物を含む8階建て建物全体を「本件マンション」という。)を代金2870万円で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
イ 原告は、被告に対し、売買代金を支払い、平成15年9月29日、本件建物の引渡しを受け居住している。
(2)原告が本件建物に居住後1年も経過しない平成16年8月、本件マンション北側隣地に3階建ての作業所兼居宅が建築され、本件建物は、隣地建物の壁で採光が奪われ、眺望、通風、景観等も失われた。
(3)消費者契約法4条2項の不利益事実の不告知
ア 被告及び被告から本件マンションの販売を委託され、本件売買契約の締結に当たり被告の代理人になった訴外東急リバブル株式会社(以下「東急リバブル」という。)は、本件マンションの販売に当たり、その広告パンフレットに「独立性の高い立地を活かした全戸に開放感ある角住戸を実現。さらに風通しや陽射しに配慮した2面採光で、心地よい空間を演出します」との記載をした。
イ また、平成15年6月、原告が本件マンションの説明を受けるため東急リバブルの事務所を訪問した際、本件マンションの販売を担当した東急リバブルの従業員である訴外中田愛子(以下「中田」という。)は、本件マンションの窓から洲崎川緑道公園が望める旨告げて眺望の良さを強調したほか、同月22日、原告が本件マンションのモデルルームを見学した際、「この窓を開ければ見えるのは何ですか」との原告の質問に対し、「遊歩道の緑ですよ」と回答した。
ウ しかるに、被告は、本件マンション敷地の被告への売主である訴外康和地所株式会社(以下「康和地所」という。)の担当者である訴外井田真介(以下「井田」という。)から、本件マンションの北側隣地所有者が、本件マンション完成後すぐに自己所有地に3階建ての作業所兼居宅を建てることを聞いており、その建築により本件建物の採光・日照等が失われることを承知していた。
エ 東急リバブルの従業員である訴外宮崎英隆(以下「宮崎」という。)は、本件売買契約締結の際、原告に対し、重要事項説明書記載の「周辺環境につきましては、建築物の建築、建替え、増改築などにより、将来変わる場合があること。また、本件建物の隣接地は第三者の所有地となっており、将来の土地利用または建築計画に関して売主の権限の及ぶ範囲でなく、一般的には都市計画法・建築基準法その他の法令等による制限の範囲に該当する建築物であれば、建造が許可されるため、将来本物件の日照・眺望・通風・景観等の住環境に変化が生じ、現在と異なる近隣および周辺環境による場合があること」を説明したが、近日中に本件マンション北側隣地に3階建て建物が建築される事実を告げなかった。
オ 以上のとおり、被告は、本件売買契約の締結の勧誘をするに際し、原告に対し、日照・眺望・通風・景観等の住環境に関する重要事項について、消費者契約法4条2項所定の、本件マンションの通風・採光・眺望・景観の良好さ等原告に利益となる事実を告げるとともに、本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その住環境が極端に悪化することな原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかった。
(4)原告は、上記事情により、本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、本件建物の住環境が極端に悪化するような事実が存在しないものと誤認して、被告に対し、本件売買契約の申し込みの意思表示をした。
(6)よって、原告は、被告に対し、不当利得変換請求権に基づき、原告から、本件建物から退去して別紙物件目録1記載の土地の持分167008分の5702及び本件建物の引渡しを受けるのと引換えに、金2870万円及びこれに対する本件売買契約成立の日の翌日である平成15年7月1日から支払い済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否及び主張
(1)請求原因(1)の事実は認める。
(2)同(2)の事実のうち本件マンション北側隣地に原告主張のころその主張する建物の建築工事が着工されたことは認めるが、現在工事はストップしており、壁工事などはいまだ施工されていないし、その建物の壁によって本件建物の採光が奪われ、眺望、通風、景観等も失われたとする点は争う。仮に、上記3階建て建物が完成したとしても、本件建物の採光は2方面から得る設計となっているのであり、本件建物は、北西側の角部屋であり、北と西の二面に開口部を設け、その箇所から採光を採っている。
(3)ア 同(3)アの事実のうち広告パンフレットの記載内容は否認する。正確には「この開放感を生かし、住戸を角側に配置し全戸角住戸を実現。多方向からの通風・採光に配慮した、2面バルコニーやワイドスパンタイプも多数採用しています。」と記述されており、「2面採光で、心地よい空間を演出します。」との記載はなく、通風・採光について特段良さを謳っていない。
イ 同イの事実のうち中田が眺望の良さを強調したことは否認し、その余は認める。眺望などについては、中田は当時本件建物から見える景色(遊歩道の緑)を説明しただけである。
ウ 同ウの事実のうち隣地所有者が本件マンション北側隣地の自己所有地に本件マンション竣工後3階建ての作業所兼居宅を建築する希望があることを被告が知っていたことは認めるが、その余は否認する。井田は、平成14年8月前後から隣地所有者と同人所有の敷地に関して、共同開発などを含めて接触を持った。その中で、隣地所有者は、本件マンションとは別に単独で自己所有地を開発利用すること、本件マンション竣工後地盤の様子を見てから自己所有地に建物を建築すること、その内容は3階建てで作業所兼住居であること、建築(建替え)は間違いなくするが、その資金調達はこれからであること、特に融資を受けていた永代信用金庫が倒産したことから、新たな融資先を探していること、融資先を紹介して欲しいこと、建築(建替え)工事をすることは入居者に伝えておいて欲しいことなどを説明した。被告は、平成14年11月ころ、隣地所有者と面談し、本件マンションの重要事項の説明のため建物(建替え)工事について、工事図面等を求めたところ、隣地所有者から、まだ建築予定の建物図面が作成されていないことや融資を受ける金融機関がまだ見つかっていないことなどの説明を受けた。
このような説明を受け、被告は、本件マンションの北側隣接地の利用計画について、建築(建替え)計画があるものの、その具体的な着工時期、建築内容などが未確定であったため、本件マンションの購入者に対する情報としては、重要事項説明書(甲5の2)の記載内容に留めざるを得なかった。重要事項説明書に記載された「本件建物の隣接地」に本件マンション北側隣接地が含まれるし、「建築物の建築、建替え」に本件マンション北側隣接地の建物の建築、建替えが含まれることは当然であり、宮崎は、原告に対し、本件マンション北側隣接地の建物が将来建替えがあること、同敷地上に建築物が建造される可能性のあることを説明し、原告も了解した。
エ 同エの事実は認める。
オ 同オの主張は否認する。そもそも、本件マンションの通風・採光・眺望・景観等が本件売買契約において、消費者契約法4条2項所定の「重要事項又は重要事項に関連する事項」に該当するかは疑問である上、被告は、本件建物の購入勧誘に際し、原告に対し、周辺環境や本件マンションの環境に関して利益となる事実を告げていないし、本件売買契約の締結に際し、原告に対し、重要事項として、本件マンション北側隣地上の建物の建て替えがあり得ることなど法令上求められている説明をしており、原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を告げなかったこともない。
(4)同(4)の事実のうち原告が本件売買契約の申込みの意思表示をしたことは認めるが、その余は不知。
(5)同(5)の事実は認める。
理由
1 争いのない事実に証拠(甲1、甲5の1、2、甲6、甲9の1ないし3、甲10ないし15、甲20の1ないし3、甲25の1ないし19、甲37、甲42、甲44の1ないし4、甲51の1ないし3、乙6、乙8、乙10、証人隣地所有者、同井田、同関口冬樹、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件売買契約の締結に至る経緯等として、以下の事実が認められる。
(1)康和地所は、平成14年4月23日、マンション建築用地として本件マンションの敷地(地積448.48平方メートル)の一部である江東区東陽1丁目の宅地(地積255.90平方メートル)を購入し、これを建築確認付きで同年9月30日被告に売却し、本件マンション敷地の残部(192.58平方メートル)の宅地を購入してこれも建築確認付で同年11月被告に売却した。
(2)康和地所が本件マンション敷地を購入した当時、その敷地の北側隣地には隣地所有者が所有する木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建ての作業所・居宅(以下「旧建物」という。)が存在し、隣地所有者は、そこでW工務店の名称で建築業を営んでいた。隣地所有者所有の旧建物の敷地は、東京都の所有する土地であったが、隣地所有者は平成13年10月25日東京都からその土地を売買により取得した。
(3)ア 康和地所の担当者である井田は、平成14年7月ころ、隣地所有者と会い、隣地所有者の所有地の売買や建築予定のマンションとの等価交換の話を持ちかけたが、隣地所有者は、旧建物を取り壊して建替える予定であったことから、その旨井田に伝えて所有地の売買や等価交換の話を断った。
イ 井田は同年8月28日ころ、隣地所有者と面談したが、その際、隣地所有者は、旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅に建て替える話しをした。そして、隣地所有者は、同年9月26日ころ、井田と面談した際にも、建てるのは3階建て建物で、4階以上は建てないから、マンションの入居者に後から文句を言われるのがいやなので、マンションの2階、3階の購入予定者にはそのことを必ず伝えてほしい旨話したところ、
井田は必ず伝える旨約束した。
この面談の際、隣地所有者は、井田に対し、隣地所有者の建て替え建物の2階と3階の南側窓が建築予定のマンションの北側窓の正面に位置しないよう計画を立てる予定であることを話し、これに対し、井田は、マンションの2・3階の北側窓が型ガラス(曇りガラス)にならないか社内で検討する旨述べた。
そして、井田は、同年9月と11月に康和地所から被告への本件マンション敷地の譲渡に伴う引継ぎを行った際に、被告の担当者に対し、上記のとおり本件マンション北側隣地の所有者である隣地所有者が旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅に建て替えるが、その旨を必ずマンションの2階、3階の購入予定者に伝えてほしい旨の要請があり、井田もその購入予定者にその旨伝えると約束したことなどを話した。
ウ その後、井田は、同年11月7日、隣地所有者のところに、被告の従業員である関口冬樹及び本件マンションの建築工事を施工したピーエス三菱の従業員である柳沢とともに、康和地所は本件マンションの敷地を被告に売却したが、今後も被告側の立場で近隣住民との交渉を担当することになったなどと言って挨拶に来た。その際、井田が関口に対し、隣地所有者も本件マンション北側隣地の所有地に3階建て建物を建てることを伝えると、関口は、隣地所有者に対し、建てるのであれば一緒の時期に建てないかなどと言ったが、隣地所有者は、一緒の時期には建てないが、本件マンションが建ったらすぐ建てる旨話した。また、隣地所有者は、関口から建築する建物の図面があるかと聞かれたので、まだ作成していないと答えた。
エ 関口は、同年12月にも、隣地所有者と面談したが、隣地所有者から建替え建物の建築資金について融資先がまだ決まっていないと聞かされたことから、直ぐには資金調達ができないものと判断し、平成16年2月ころに作成された本件マンションの重要事項説明書(甲5の2)には、本件マンション完成後その北側隣地に隣地所有者が3階建て建物を建替える計画があるといったことなどについて何ら具体的な記載をしなかった。
オ ところで、隣地所有者は、建替え建物の建築時期については、本件マンション完成後と考えていたが、マンションの竣工時期が不明であり、隣地でマンション建築工事が施工される関係で地盤が緩み、それが固まるのを待ってから建物の建築工事に着工しようと考えていたこともあって、具体的な日にちまでは決めてなかった。しかし、早ければ平成15年11月ころには建築工事に着工しようと考えていた。
(3)被告は、平成14年11月本件マンションの建築工事に着工し、平成15年9月4日に本件マンションが完成し、同月16日その表示登記がされた。
(4)ア 原告は、平成15年2月ころから持ち家を購入すべくマンション物件を物色していたが、同年6月21日から23日までの3日と26日、本件マンションの説明を受けるため東急リバブルの門前仲町マンションギャラリーを訪問した。その際応対した東急リバブルの従業員で本件マンションの販売担当者であった中田は、本件マンション北側は洲崎川緑道公園に面していることから、原告に対し、本件マンションの北西角の本件建物の窓から洲崎川緑道公園が望める旨を告げて眺望の良さを強調したほか、原告に配付した本件マンションの「Buon Appetito!」((伊)たっぷり召し上がれ)と題するパンフレット(甲6)、図面集(甲15)及びチラシ(甲11)に記載されている本件建物の採光や通風の良さを強調した。
イ 上記パンフレットには、「豊富な緑にたたえられた「洲崎川緑道公園」に面する3方を道路や公園に囲まれた開放感のある立地です。この開放感を生かし、住戸を角側に配置し全戸角住戸を実現。多方向からの通風・採光に配慮した、2面バルコニーやワイドスパンタイプも多数用意しています。」と記載され、上記図面集には、「3方を道路や公園に囲まれた独立性の高い立地です。独立性の高い立地を生かした全戸に開放感のある角住戸を実現。さらに風通しや陽射しに配慮した2面採光で、心地よい空間を演出します。」と記載され、上記チラシには「重要!!マンション選びのポイント 交通の利便性 生活の利便性 居住環境・ランドプラン」と記載され、その居住環境・ランドプランの欄には、「緑道に隣接するため、眺望・採光が良好!」「全戸角住戸!2面以上の開口・採光を確保!」と記載されており、当該チラシの「緑道に隣接するため、眺望・採光が良好!」との記載部分は、本件建物が所在する本件マンションの北側部分について指摘したものである。
ウ 原告は、周辺環境については東急リバブルから配付された現地案内図(甲12)を見ながら中田から説明を受けた。その現地案内図には、本件マンション北側隣地の建物は「ソーコ」と記載されていたので、原告は、北側隣地に建てられている建物について尋ねたところ、中田は、「あれは資材置場です。」と答えたが、作業所であるとの説明はなかったし、建て替えられる予定であるという説明もなかった。
(5)その後、原告は、本件建物を購入することを決め、平成15年6月30日、前記門前仲町マンションギャラリーにおいて、被告との間で本件売買契約を締結したが、その際、東急リバブルの従業員で本件マンションの販売担当者であった宮崎から重要事項の説明を受けた。宮崎は、原告に対し、重要事項説明書(甲5の2)の「周辺環境について」欄に記載された「周辺環境につきましては、建築物の建築、建替え、増改築などにより、将来変わる場合があること。また、本件建物の隣接地は第三者の所有地となっており、将来の土地利用または建築計画に関して売主の権限の及ぶ範囲でなく、一般的には都市計画法・建築基準法その他の法令等による制限の範囲に該当する建築物であれば、建造が許可されるため、将来本物件の日照・眺望・通風・景観等の住環境に変化が生じ、現在と異なる近隣および周辺環境による場合があること」といった一般的な説明はしたが、前記(3)で認定した隣地所有者による旧建物の建替え計画があり、近い将来本件マンション北側隣地に3階建て建物が建築される予定であるとか、本件マンション完成後に建物の建て替えがされる予定であるといった具体的な説明はしなかった。
原告は、同年9月29日被告から本件建物の引渡しを受け、以来そこに居住している。
(6)隣地所有者は、平成16年2月に3階建ての作業所兼居宅建物の建築確認を得て、同年3月末から4月にかけて旧建物の取り壊しを開始し、同年6月に基礎工事に着工した。
平成17年12月22日現在、本件訴訟が係属していることから、隣地所有者が一時的に建築工事の進行を止めていることもあって、3階建ての作業所兼居宅建物はいまだ完成するに至っていないが、壁等は未施工であるものの、鉄骨の枠組みが組まれている状況にある。そのようなことから、本件訴訟が決着すれば、早晩、上記建物は完成することに至ることが予想される。
(7)本件建物は、Dタイプ−2LDKのもので、間取りは、6畳大及び5畳大の広さの洋室2部屋と10.3畳大のダイニング(居間・食堂)等からなっている。6畳大の洋室北側には窓が3箇所設置されており、そのうち2箇所が開閉の出来ないはめ殺し型のガラスブロックであり、残りは開閉の出来る竪すべりのアルミサッシ窓であり、5畳大の洋室の北側と西側にはそれぞれ窓が1箇所設置されており、いずれも開閉の出来る引き違い型のアルミサッシ窓である。これらの窓のうち北側の窓ガラスは、いずれも網入り型板ガラス(曇りガラス)であるが、完成した本件マンション北側の4階以上の建物北側の窓は、本件建物とは異なり、全てではないが、透明ガラスが使用されている。
本件マンション北側隣地に3階建ての作業所兼居宅建物が完成すれば、その完成した建物南側の壁面は本件建物北側の壁面と隣接し、その結果、本件建物の洋室(特に6畳大の洋室)の採光が奪われ、それにとどまらず、その洋室の窓からの眺望・通風・景観が失われることは明らかである。
2 以上のとおりであるところ、原告は、被告による不利益事実の不告地を理由に消費者契約法4条2項に基づき本件売買契約の取消しを主張するので、以下この点について判断する。
(1)まず、消費者契約法4条2項に基づいて消費者契約を取り消すには、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げることが要件となっているところ、前記認定のとおり、東急リバブルの従業員で本件マンションの販売担当者であった中田は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの北西角の本件建物の窓から洲崎川緑道公園が望める旨告げて眺望の良さを強調したほか、原告に配布した本件マンションの「Buon Appetito!」((伊)たっぷり召し上がれ)と題するパンフレット(甲6)、図面集(甲15)及びチラシ(甲11)に記載されている本件建物の採光や通風の良さを強調し、これらのパンフレット、図面集及びチラシにも本件マンションの眺望・採光・通風の良さが謳われていること、本件建物の眺望・採光・通風は、本件売買契約の対象物である本件建物の住環境であること等に徴すると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件建物の眺望・採光・通風といった重要事項について原告の利益となる旨を告げたというべきである。
(2)ア 次に、消費者契約法4条2項は、事業者が当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことを要件としているところ、前記認定のとおり、被告は、本件売買契約締結当時、隣地所有者から本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅を建て替える計画であることを聞かされて知っていたのであり、しかも隣地所有者からも康和地所の井田を介してマンションの2階、3階の購入予定者にはその旨必ず伝えるよう要請されていたにもかかわらず、本件売買契約締結の際に、重要事項説明書に記載された一般的な説明はしたが、隣地所有者による旧建物の建て替え計画があり、近い将来本件マンション北側隣地に3階建て建物が建設される予定であるとか、本件マンション完成後に建物の建て替えがされる予定であるといった具体的な説明はしなかったのである。
そうすると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかったものというべきである。
イ この点につき、被告は、本件マンション北側隣接地の利用計画について、建築(建替え)計画があるものの、その具体的な着工時期、建築内容などが未確定であったため、本件マンションの購入者に対する情報としては、重要事項説明書(甲5の2)の記載内容に留めざるを得なかったが、そこに記載された「本件建物の隣接地」に本件マンション北側隣地が含まれるし、「建築物の建築、建替え」に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれることは当然であり、宮崎は、原告に対し、本件マンション北側隣地の旧建物が将来建替えがあること、同敷地上に建築物が建造される可能性のあることを説明し、原告も了解したのであり、この宮崎の原告に対する重要事項の説明が不利益事実の告知に当たるなどと主張する。しかしながら、前記認定のとおりいまだ図面等が作成されておらず、隣地所有者による作業所兼居宅の建築の具体的な着工時期や3階建て建物の建築内容等が未確定であったとしても、前示の通り隣地所有者から本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に旧建物を取り壊して3階建ての作業所兼居宅を建て替える計画であることを聞かされていたのである(だからこそ被告においても前記認定のとおり本件建物北側の窓ガラスを型板ガラスにしたものと思われる。)から、本件建物の購入者である原告に対し、本件マンション北側隣地の所有者が旧建物を取り壊して3階建ての建物に建て替える計画があり、建て替えがなされる予定であることを告知すべきであったというべきである(建築の具体的な着工時期や3階建て建物の建築内容等が未確定であったことから、被告において隣地所有者の建替え計画がおよそ実現される可能性がないものであるとか、建築するについても本件マンション完成後すぐにというものではないと判断したことを正当化する事情は見出せない。)。また、重要事項説明書(甲5の2)に記載された「本件建物の隣接地」に本件マンション北側隣地が含まれ、「建築物の建築、建替え」に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれるとしても、前示のとおり、宮崎は、原告に対し、重要事項説明書に記載された一般的な説明をしたにとどまるのであって、具体的に本件マンション北側隣地の旧建物が含まれるとしても、前示のとおり、宮崎は、原告に対し、重要事項説明書に記載された一般的な説明をしたにとどまるのであって、具体的に本件マンション北側隣地の旧建物に言及して説明したとは認められず、宮崎の説明をもって、原告に対し本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建ての建物が建築されるという不利益事実の告知がなされたと解することはできない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
(3)さらに、消費者契約法4条2項は、事業者が当該消費者に利益となる旨を告げ、かつ、当該消費者の不利益となる事実を故意に告げなかったことにより、当該消費者が当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたことを要件としているところ、前記認定事実によれば、原告は、被告による利益の告知がなされ、かつ、被告から本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築されるといった不利益な事実を故意に告げられなかった結果、本件マンション完成後すぐにその北側隣地に3階建ての建物が建築されることはないものと誤認し、被告に対し、本件売買契約の申込みの意思表示をしたものというべきである。
3 請求原因(5)の事実は当事者間に争いがない。
本件売買契約が取り消されたことにより、被告が法律上の原因なく本件売買契約に基づく売買代金相当額の利得を得ていることは明らかである。
なお、原告は、売買代金相当額の利得金につき本件売買契約成立の日の翌日である平成15年7月1日から支払い済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払いを求めているが、利得者が悪意の場合は、受領の時から遅延損害金ないし法定利息が生じるところ、不当利得につき被告が悪意となるのは本件売買契約が取り消された時であると解されるから、利息発生の始期は本件売買契約の取り消しの日の翌日である平成16年12月8日というべきである。
4 以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、原告から本件建物から退去して別紙物件目録(一)記載の土地の持分167008分の5702および同目録(二)記載の建物を引き渡すのと引換えに、金2870万円および平成15年7月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による利息の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条ただし書きを、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。